僕は読書が大好きですが、一冊の本を読んで、
その内容を鵜呑みにしてしまうのは危険だと思っています。
一本の映画が、監督一人のイメージを具現化したものであるのと
同じように、一冊の本も、たった一人の作者の頭の中身を
活字にしたものに過ぎません。
もちろん映画も本も、代表者である監督や著者以外の人
(カメラマンやプロデューサー、編集者など)の影響が
ふんだんに反映されてはいますが、最終的にはみんな、
その代表者のイメージを具現化することに力を結集させます。
代表者の頭の中にある幻想を、現実のものにするために
多くの人が参加する壮大なプロジェクトという感じでしょうか。
それゆえに、映画や本は、たくさんの人が参加しているにも
関わらず、最終的には個人的な側面を持っているものです。
そして、観客や読者は、作品を通して、
その監督や著者と一対一で対話をしているようなものです。
100%正しい人間は存在しないのですから、
100%正しい作品というのもまた存在しません。
活字の魔力によって、本に書かれてあることはすべて正しいと
思ってしまいがちですが、案外不完全で、曖昧で、
間違っていることさえあるものです。
不完全で曖昧な人間を愛するように、
不完全さも曖昧さもすべて含めてその作品の愛すべき点です。