日記

アナログの快感

技術進歩の速度はすさまじいもので、
ほんの数年前は音楽制作の現場に行くと
たくさんのツマミやスイッチが配された巨大な機械が
スタジオを占拠していましたが、今ではそれらはすべて
コンパクトなパソコンの中に入ってしまいました。

指の肉体的な感覚で微調整していたツマミが、
パソコン画面の中に「ツマミのグラフィック」として表示され、
それをマウスでいじったり、テンキーで数値を入力したりして
調整するようになってしまったのです。

スタジオは、一昔前のように床にたくさんのコードが這っている
技術研究所のようなものではなく、美しいほどに簡素化された
スタイリッシュな空間に様変わりしてしまったのでした。

しかしながら「音」というのは「振動」ですので、
パソコン内部だけで完結してしまうのと、
昔のように複雑な配線の中を通過し、
様々な機材の部品の中を通り抜けて生み出されるものとでは
質感に違いが出てくるのは当然のことですね。

作家の頭の中にぽっかりと浮かんだ美しいイメージを、
その良い部分がそぎ落とされることなく音源に封じ込めることが
音楽制作の最大の目標なのですが、デジタル機材の中だけで
完結しようとするとそれがなかなか難しかったりします。

アナログとデジタルの対比がよくなされますが、
どちらが良いかなどということ以前に、
人間そのものが「アナログ」ですので、
「アナログの快感」を手放すことは決してできないでしょう。

「アナログの快感って具体的にどんな?」

と言われれば、「あったかい」と言うことができるでしょう。

なぜあったかく感じられるのかは良く分かっていないのですが、
低音に包み込まれるような感じ、とか、
音が濁っている(ハイファイではなくローファイルである)
などと言われることがありますね。
しかしこれを技術的に解明することは、
生命の神秘に迫ることに等しいでしょう。

人間がロボットにならない限り、
「アナログの快感」を忘れることはできないのです。

作曲家・株式会社サウンドジュエルデザイナーズ 代表取締役/青森県出身・横浜市在住/映画音楽、テレビやCMの音楽、歌、舞台音楽など、幅広い色彩の音楽を、繊細な音楽表現で描いています。主な作品は、映画『校庭に東風吹いて』、『ひまわり 沖縄は忘れない あの日の空を』、『アンダンテ 稲の旋律』、テレビアニメ『アスタロッテのおもちゃ!』など。特技は、集中力が長時間持続すること。好きなものは、美しいもの、映画、本、マカロン、チョコレート、高い所。好きな言葉は、「芸術家は弱者の味方である」。ドストエフスキー、太宰治、寺山修司、芥川龍之介、江戸川乱歩、夢野久作などを愛読しています。