日記

エンジニアの高等テクニック

昨日、ボーカルレコーディングにおけるサビあたま部分の
ボリューム演出に関して書かせていただきましたが、
レコーディングにおける「高等テクニック」を
もうひとつご紹介いたします。

レコーディングには様々ミュージシャンが参加をするため、
それぞれの思惑が交錯します。
自分の演奏はできるだけ大きな音で聴かせたいという
欲が生まれます。

また、レコーディングスタジオにはミュージシャンの他にも、
クライアントやプロデューサーがおいでになり、
音楽に関して希望をおっしゃる場合も多く、
つまり、たくさんの人の欲望が洪水のように溢れます。

その渦の中で、いかに冷静に音楽を最良の方向へ導けるかが、
ディレクターとエンジニアの仕事となります。

音楽がほぼ完成し、これで間違いないだろうとなった頃に、

「ボーカルの音をもう少しだけ上げて。」

とか

「ここのギターソロの音をもっと上げて。」

と、ボリュームアップに関する指示が出ます。

そして、ボーカルやギターソロの音量をアップした後に、

「すみません・・・ドラムなんですけど、
 もう少しボリュームを上げて聴かせたいんですけど。」

とドラマーの人が言います。続いて、

「低音が薄い感じがするから、ベースをもっと上げたい。」

とベースの人も言います。

そうしてそれらをすべてそのまま実行した結果、
曲全体の音量が上がっただけ、というのはよくある話です。

こうならないためにも、この部分の主役はどのパートなのかを
しっかりと計算し、演出し、ミックスしなければいけません。

しかし、相手も人間です。

「その音量を上げるわけにはいきません。」

ときっぱりお断りするのも何とも味気ない話です。

そこでエンジニアの人が最後に使う「高等テクニック」は、
まず、フェーダー(音量を操作するツマミ)を
上げる「フリ」をします。そして、

「はい、上げました。聴いてみましょう。いかがでしょうか。」

と言います。

すると不思議なことに、

「お、いいね~。」

と丸く収まるという話です。

そのくらい、音に対する感覚というのは、
主観的かつ感情的なものであるということの一例です。

※これはあくまでも笑い話の一種ですので、
すべての現場でこのようなことが行われているわけでは
ありませんのであしからず。

作曲家・株式会社サウンドジュエルデザイナーズ 代表取締役/青森県出身・横浜市在住/映画音楽、テレビやCMの音楽、歌、舞台音楽など、幅広い色彩の音楽を、繊細な音楽表現で描いています。主な作品は、映画『校庭に東風吹いて』、『ひまわり 沖縄は忘れない あの日の空を』、『アンダンテ 稲の旋律』、テレビアニメ『アスタロッテのおもちゃ!』など。特技は、集中力が長時間持続すること。好きなものは、美しいもの、映画、本、マカロン、チョコレート、高い所。好きな言葉は、「芸術家は弱者の味方である」。ドストエフスキー、太宰治、寺山修司、芥川龍之介、江戸川乱歩、夢野久作などを愛読しています。