日記

ズレが魅力を生み出します

音楽を録音する時には、すべての演奏者分の楽譜を用意して
「一発ドン(古い表現ですみません)」で生演奏を録る場合と、
テクノロジーを駆使してプログラミングによる演奏を録る場合の
2パターンがあります。

生演奏を録音したほうが「人間的であたたかみがある」、
プログラミングによる音楽は「機械的で味気ない」と言われた
のはもうずいぶん昔のことで、現代では、生演奏なのか
プログラミングなのか分からないところまで来ていますし、
生演奏による質感と、プログラミングによる正確さや重厚さを
融合させて作ることのほうが多くなりました。

人間的である、機械的である、というこの二つの違いは、
「ズレ」が生み出していると言って良いでしょう。

生演奏を録音する場合は、それぞれのパートを人間が奏でる
ことになりますので、同じ旋律を弾いていても当然のことながら
微妙にズレて、それは「音の厚みや人間臭さ」となります。

そこで、プログラミングで音楽を作る時には、
この「ズレ」を意図的に演出していくことになります。

たとえば同じフレーズを重ねる場合、ひとつの演奏データを
コピーしてしまえば楽なのですが、それを同時に鳴らしても
音量が大きくなるだけで音の厚みや人間臭さは出ません。

そこで、コピーしたひとつのほうのデータのタイミングを
ずらしたり、音質を変えたりして、もうひとつのほうと違う
ものになるように手を加えます。

ところが、これだけでも十分とは言えません。
同時に鳴らすと、

「二人の人間が、異なる音質の演奏を、平行な線路のように
 どこまでも演奏しているような気持ち悪い音楽」

になってしまうためです。

重要なのは、

「ところどころ合っていて、ところどころズレている」

ということであり、それを演出するためには、
データのコピーでは不可能ということになります。

作曲家の冨田勲さんは、

「音を重ねていく時には、コピーでもいいんですけど、
 一回一回手弾きで重ねていったほうが厚みが出る」

というようなことをおっしゃっています。

つまり、録音データを作るのはたった一人の作業であっても、
フレーズを重ねる時に、いちいち録音し直すほうが、

「ところどころ合っていて、ところどころズレている」

をデータに込めることができるというわけですね。

これは実は音楽だけではなく、何にでも言えることで、

「たくさんの人がそこに存在する感じ。
 そして、みんなで同じ方向に向かっていても、
 それぞれが少しずつズレている感じ」

が、人の心を惹きつけるのだと思います。

作曲家・株式会社サウンドジュエルデザイナーズ 代表取締役/青森県出身・横浜市在住/映画音楽、テレビやCMの音楽、歌、舞台音楽など、幅広い色彩の音楽を、繊細な音楽表現で描いています。主な作品は、映画『校庭に東風吹いて』、『ひまわり 沖縄は忘れない あの日の空を』、『アンダンテ 稲の旋律』、テレビアニメ『アスタロッテのおもちゃ!』など。特技は、集中力が長時間持続すること。好きなものは、美しいもの、映画、本、マカロン、チョコレート、高い所。好きな言葉は、「芸術家は弱者の味方である」。ドストエフスキー、太宰治、寺山修司、芥川龍之介、江戸川乱歩、夢野久作などを愛読しています。