日記

ネコのしっぽに誘われて

「作曲家はどうやってインスピレーションを得るのですか」

「メロディーはいつ下りてくるのですか」

などと度々訊かれるのですが、僕は残念がらモーツァルトでは
ありませんので、メロディーは下りてきません(笑)。

「下りる」と言うくらいですから、天空から地上に向かって
インスピレーションが降下してくるように感じる人が多いのか
もしれませんが、僕の知人の作曲家は、地の底から這い上がって
くるようにメロディーを得ると言いますので、
インスピレーションの獲得のしかたも人それぞれです。

僕は残念ながら天才ではありませんので、
メロディーの発想や創作には常に苦しみが伴うことになります。

まずプロジェクトのコンセプトやテーマを読み込んで自分の中
に入れ、とりあえずああでもないこうでもないと作ってみます。
その段階では本当にどうしようもないものばかり
出来上がります(笑)。

そしていったんその作業から離れるのです。
「諦める」と言ったほうが的確かもしれませんね。

別のプロジェクトに手を付けたり、本を読んだり、
映画を観たり、散歩をしたり、部屋の中を落ち着きなく
ぐるぐる歩き回ったりして時間を過ごします。
この時間は何をしても楽しくなく、落ち着かず、
気がかりと焦りで、つい不機嫌な表情になってしまいます。

そして時間が経ち、そのプロジェクトについて考えなくなった頃
(それは無意識には延々考えているのでしょうけれど)、
たとえばお風呂に入ったり、ごはんを食べたり、眠ろうとしたり
(僕の場合はお風呂に入っている時が一番多いのですが)、
突然その瞬間が訪れます。

それは、右上の方向に目に見えない透明な天井があるとすれば、
そこに小さな穴が空いて、そこからまるでネコのしっぽのような
ものが先っぽだけ顔を出し、先端がまるで誘うように魅惑的に
上下左右に動きます。
まるであの世に手招きされているかのように(笑)。

それをつかまえて地上まで引きずり下ろすことになるのですが
その時にも苦しみが伴います。
ちょっとでも気を抜くと指の間からするりと逃げて、天井の穴に
隠れて二度と現れてはくれませんし、地上に引きずり下ろすに
しても、かなり格闘することになります。

もっと僕に従順で大人しいネコのしっぱに誘われたいと
いつも思っています(笑)。

今日の音楽

砂糖菓子のワルツ/作曲:山谷 知明

作曲家・株式会社サウンドジュエルデザイナーズ 代表取締役/青森県出身・横浜市在住/映画音楽、テレビやCMの音楽、歌、舞台音楽など、幅広い色彩の音楽を、繊細な音楽表現で描いています。主な作品は、映画『校庭に東風吹いて』、『ひまわり 沖縄は忘れない あの日の空を』、『アンダンテ 稲の旋律』、テレビアニメ『アスタロッテのおもちゃ!』など。特技は、集中力が長時間持続すること。好きなものは、美しいもの、映画、本、マカロン、チョコレート、高い所。好きな言葉は、「芸術家は弱者の味方である」。ドストエフスキー、太宰治、寺山修司、芥川龍之介、江戸川乱歩、夢野久作などを愛読しています。