人間は一日にいくつかのことを
同時進行的にこなさなければいけません。
仕事だけやっていれば良いということはなく、
家庭のこと、友人との付き合い、未来のための勉強など、
いろいろなことを並行してやらなければいけませんし、
様々な心配事も同時に解決していかなければいけません。
僕は音楽制作会社をやっていますが、
プロデューサーやディレクター、マネージャーを
雇うお金がないため、すべて自分でやらなければいけません。
依頼されていた音楽をクライアントに届ける時などは、
通常、大きな制作会社ですと作家本人ではなく制作ディレクター
が間に入って、作家の意思を伝えたり、
クライアントの希望をヒアリングしたりします。
そのことによって、作家の想いが分かりやすく、なおかつ
良い方向に少し演出されてクライアントに伝わりますし、
クライアントも、作った張本人には言いづらいことも、
しっかりリクエストすることができます。
しかし、僕の場合はそれらをすべて一人でやりますので、
自分で作ったものをクライアントに届けるのも自分です。
クライアントに自分の作品をあれこれ言われると傷付いて
かなり落ち込みますし、クライアントだって本人を前にして、
言いたいことを100%言うのはなかなか難しいでしょう。
そこで、仕事に支障が出ることを避けるために、
僕は「多重人格」になろうとします。
つまり、創作の時には作家としての自分、出来上がった作品を
クライアントにプレゼンする時にはディレクターとしての自分、
営業の際には営業マンとしての自分、お金の処理をする時には
経理係の自分、などというようにいくつもの自分を創造して、
他のことをしている自分とは完全に切り離すようにしています。
たまに、僕がさも他の作家が作った作品を持ってきたように
振る舞うために、クライアントもそんな気分になり、
時間が経つに連れて目の前にいる僕が作ったのだと思い出して
「ああ、これは山谷さんが作ったんでしたね。」
などと言われることさえあります。
営業の際にはスーツやネクタイの色もその人格に合わせるため、
初対面の人などは最初僕のことを音楽制作会社の営業マンか何か
だと思って話していて、やがて作品サンプルをお渡しすると、
「え!? これみんなあなたが作ったのですか?」
と驚かれることもあります。
制作ディレクターとしての人格を創り上げることで、
自分の作品を客観的に見ることができるようになりますし、
クライアントの希望や作品に対する改善点などを、
ストレスなく受け入れることができます。
「それでは、会社に帰って、ご希望を作家に伝えます。」
と言って去ることもあります(笑)。