幼い頃の記憶が、突然よみがえる瞬間があります。
それは何も特別な出来事の思い出などではなく(特別な出来事の
思い出というものは心の浅いところに存在していて、いつでも
引き出されるものです)、何気ない、思い出しても何の得にも
ならないようなワンシーンであり、それは通常、心の奥深い
ところにしまい込まれているようなものです。
その何でもない情景がふとよみがえり、心をとらえて離さない
というようなことがたまにあります。
僕は、生まれ育った青森県黒石市の街にあった本屋さん(今は
廃業して存在しませんが)の裏口に通じる暗がりを
最近思い出しました。
それはおそらく僕が5歳かそこらだった頃のことと思います。
お父さんに連れられて行った本屋の裏口に通じる狭い通路は、
暗く、埃っぽく、何かが棲んでいるような気がしたものです。
その暗がりを通り抜けて、裏口を抜けた瞬間、
目の前に明るくて広い駐車場が現れて、映画館から外に出た
ような、夢から現実に戻るかのような感覚を覚えたものです。
そういう何でもない記憶が、心をとらえて離さないような時、
自分の心がいったいどんな状態にあるのか分析してみますと、
たいていは、心理的に何かに立ち向かっている時、
弱っている時、突破口を見つけようともがいている時である
ことに気が付きます。
なつかしい日々/作曲:山谷 知明