日記

思い出はずっと生きている

思い出というものは人間にとって、
もっとも貴重な宝物であると言えるでしょう。

「人はいつか最愛の人と別れなければならない」

という言葉がありますが、どんな人とのあいだにも、
いつか必ず別れが訪れますね。

その人との別れそのものが悲しいのではなく、
その人と共有していた過去が、思い出に変わってしまうことが
人を寂しくさせるのでしょうね。

しかし、その瞬間を越えてしばらく時間が経つと、
その思い出たちが再び色を取り戻し、輝き始めます。
そして、生き残った人のこれからを照らす光になります。

たとえば僕は大好きなおばあちゃんを亡くしましたが、
もう高齢でしたので、それは自然の成り行きで、
別れそのものに対する大きな悲しみはありませんでした。

それよりも、おばあちゃんとの過去が、
とうとう思い出になってしまったのだと気付いて、
寂しい気持ちを感じました。

しかし、しばらくしたらその寂しさは、
優しくて美しい、嬉しいような気持ちに変化してきたのです。

まだとても幼かった頃、長袖の服を二つ重ねて着る時に、
二つめの服を着ようとすると、一つめの服の袖が中でまくれて
腕まくりをした半袖のようになってしまうのが気持ち悪く、
どうしようもない不快感に苦しんでいた時に、おばあちゃんが

「二つめを着る時は、一つめの袖を握りながら、
 腕を通すといいんだよ。」

と教えてくれました。
こんなこともできない、気付かない、子供だった頃の話です。

僕は今でもこの時のことを、長袖の服を着る度に思い出します。
おばあちゃんは僕の暮らしの中でずっと生きているのです。

作曲家・株式会社サウンドジュエルデザイナーズ 代表取締役/青森県出身・横浜市在住/映画音楽、テレビやCMの音楽、歌、舞台音楽など、幅広い色彩の音楽を、繊細な音楽表現で描いています。主な作品は、映画『校庭に東風吹いて』、『ひまわり 沖縄は忘れない あの日の空を』、『アンダンテ 稲の旋律』、テレビアニメ『アスタロッテのおもちゃ!』など。特技は、集中力が長時間持続すること。好きなものは、美しいもの、映画、本、マカロン、チョコレート、高い所。好きな言葉は、「芸術家は弱者の味方である」。ドストエフスキー、太宰治、寺山修司、芥川龍之介、江戸川乱歩、夢野久作などを愛読しています。