日記

思い出は美化される

学生時代、同級生の女の子で、過去に付き合った男性のことが
忘れられず、なかなか次の恋に進めないという人がいました。

その男性も僕の友人ですのでよく知っているのですが、
それほど強い印象を残すようなインパクトのある男ではなく、
ごく普通の人なのですが、恋する女にとっては、
どんなに普通の男でも世界で唯一の特別な人に見えるものです。

また、付き合った者同士にしか分かり得ない幸せなひととき、
胸を揺さぶる感動などの共有があるものですので、
それを第三者がどうこう言うことはできません。
誰も踏み込めないその二人だけの「完璧な世界」です。

その女の子はしきりに

「思い出が苦しい。思い出がかわいそう。」

というようなことを僕に言っていました。

別れてしまった恋人たちにとっては、相手の喪失というよりも
むしろ、もう一緒に思い出を作ることはできないのに、
過去の思い出だけが輝き続けていることがつらい、
という心境が少なからずあるようです。

思い出というものは、時の流れと共に、一層美しくなります。
その思い出にまつわる負の部分はマスキングされ、
良いポイントだけが増幅・強調されるようになっています。

人間に備わった唯一の良いところは「忘れること」ですので、
その特性が、この「思い出を美化する」という行程においても
威力を発揮するのですね。
すなわち、良くない部分は忘れ去られ、
良い部分だけが結晶化されて残ります。

そして、人間は物事を比較してしまう悪い癖を持っていますので
新しく出逢った人と、その美しく結晶化された思い出の中の
過去の人とを比べてしまい、

「あの人のほうが良かった。」

と思ってしまいます。

美しい思い出(自分の脳で美しくカスタマイズされた思い出)
に囚われてしまって、いつまでたっても新しい恋ができません。

思い出の中の過去の恋人は、この世には存在しない、
自分自身が作り上げた幻影であると知りましょう。

そして、勇気をもって今一歩新しい道に踏み出し、
新しい人との思い出作りを始めてみましょう。

作曲家・株式会社サウンドジュエルデザイナーズ 代表取締役/青森県出身・横浜市在住/映画音楽、テレビやCMの音楽、歌、舞台音楽など、幅広い色彩の音楽を、繊細な音楽表現で描いています。主な作品は、映画『校庭に東風吹いて』、『ひまわり 沖縄は忘れない あの日の空を』、『アンダンテ 稲の旋律』、テレビアニメ『アスタロッテのおもちゃ!』など。特技は、集中力が長時間持続すること。好きなものは、美しいもの、映画、本、マカロン、チョコレート、高い所。好きな言葉は、「芸術家は弱者の味方である」。ドストエフスキー、太宰治、寺山修司、芥川龍之介、江戸川乱歩、夢野久作などを愛読しています。