日記

数値やグリッドの束縛から自由になる

パソコンを使わずに音楽を作ると、いわゆるアナログ的な動きが
多くなりますので、良く言えば「人間っぽい」、
悪く言えば「でこぼこな」ものが出来上がります。

対して、パソコンを使って音楽を作ると、すべてを明確な数値で
決めていくことになりますので、良く言えば「はっきりした」、
悪く言えば「味気ない」ものが出来上がります。

たとえば、「ド・レ・ミ」というメロディーがあったとして、
音の強さ(もしくは音量)を次第に上げて奏でたいという時に、
パソコンで音楽を作る時には、「ベロシティ」という数値を
いじって音の強さを数値で指定してあげるのですが、

「ド・レ・ミ」=「ベロシティ:30・40・50」

などというように、ついつい「分かりやすい数値」で
打ち込んでしまいがちです。

実際に人間が楽器を生演奏したなら、

「ド・レ・ミ」=「ベロシティ:24・28・53」

などとなることが多いと思うのですが、パソコンのモニターで
数値を目で見ながら打ち込んでいきますので、どうしても
「キリの良い数値」を設定しまう傾向があります。

また、ベロシティは、現段階では
「127段階」しか設定できないため、たとえば、

「40と41の間の強さ」

というのは表現できないことになります。
表現欲を犠牲にして捨て去り、「40」か「41」かのどちらかを
選択しなければいけないのです。

また、たとえばパソコンを使って絵を描いていて、
色の濃淡を決めなければいけないような時、
ついつい仕事の忙しさに振り回されて、「濃淡:50」や「30」
などというキリの良い数字に決めてしまいがちです。

実際には、目で見て判断して「22」とか「78」などという
数値を設定しなければいけないのですが、
「忙しさ」と戦っている時には、
このような細かい表現設定が犠牲になることもありますし、
音楽の場合と同様に、「濃淡:50」と「51」の間は、
そもそも設定することさえできないのですから、
諦める以外に方法がないということになります。

つまり、パソコンを使って創造する時には、
その表現の幅は、驚くほど狭められていることになります。

そんな状況でも、やはりパソコンを使ってものを作るのは
あらゆる面において便利ですし、コストを軽減できます。

そこで、パソコンを使いながらも、
できる限りアナログな表現をするために、

「数値やグリッドの束縛から自由になる」

ことを意識的に自分の中に取り込むようにしましょう。

グリッドというのは方眼紙のマス目のようなもので、
音楽で言えば、音を発音するタイミングなどに使用されます。

すべての音が拍のアタマきっちりで鳴る音楽というのは、
音楽を人間の心理に寄り添う芸術であると定義する以上、
ありえないことなのですが、実際は現在世の中に出回っている
音楽の大部分は拍のアタマきっちりの音楽であると言えます。

「キリの良い数字」や「グリッドに沿った設定」に依存する
気持ちを押し殺して、目と耳による感覚だけを頼りに、

「整っていない数値でも良し」

「グリッドからずれていても良し」

ということを自分に言い聞かせて作っていくと良いでしょう。

作曲家・株式会社サウンドジュエルデザイナーズ 代表取締役/青森県出身・横浜市在住/映画音楽、テレビやCMの音楽、歌、舞台音楽など、幅広い色彩の音楽を、繊細な音楽表現で描いています。主な作品は、映画『校庭に東風吹いて』、『ひまわり 沖縄は忘れない あの日の空を』、『アンダンテ 稲の旋律』、テレビアニメ『アスタロッテのおもちゃ!』など。特技は、集中力が長時間持続すること。好きなものは、美しいもの、映画、本、マカロン、チョコレート、高い所。好きな言葉は、「芸術家は弱者の味方である」。ドストエフスキー、太宰治、寺山修司、芥川龍之介、江戸川乱歩、夢野久作などを愛読しています。