一人の人間が生まれ、生き、そして死ぬまでの物語は、
たとえその内容がどんなものであったとしても、
古今東西のあらゆる名作映画よりも
素晴らしいものであると思います。
音楽で言い換えますと、どんなに素晴らしいメロディーも、
胸に迫るハーモニーも、心躍るリズムも、
自然界にすで存在している音、たとえば風の音や川のせせらぎ、
小鳥たちの歌声などには決してかなうことはありません。
「芸術は自然の模倣である」
という言葉の通り、自然界にすでに存在している美に
少しでも近付きたいという衝動から起こるのが
「創作」という行為であると言えるでしょう。
どんな映画の名台詞よりも、街角で出逢ったおじいちゃんの
たった一言のほうが重みがあり、胸を打つことがあります。
それは、生身の人間が自らの生活の中から絞り出した
「いのちの言葉」であるからでしょう。
「創作」は「自然」を超えることを希って尽力されますが、
永遠に超えることはできません。
「自然の美を超えるくらいのものを作りたい」
という創作家の「切ない願い」を受け取ることが、
芸術を味わうということの正体であると言えるでしょう。