日記

足すのではなく引くことで効果を出そう

音楽制作の現場では、音を最終的にまとめていく「ミックス」
という作業で、イコライザー(略してEQ)というものを使います。

一般家庭にあるコンポやラジカセに、「高域(H)・中域(M)・
低域(L)」などというツマミが付いていて、それを回すと
音質が変化する機能がありますがあれと同じものです。

たとえば、ピアノとベースの音が入っている音楽があり、

「ピアノの音がちょっとこもっている感じがするから、
 もっと高音をキラキラさせて空気感を出したい。」

と思った時に、高域(H)のツマミに手が伸びるのは、
人間の性(さが)ですね。
ピアノの高域成分をブースト(増幅)しようと考えるわけです。

しかし、音楽を音源に閉じ込めようとする時に、
音のエネルギーが収まっている空間には限りがあり、
ブーストするとすぐにその空間が埋まってしまいます。

ピアノの高域成分を増幅できたのはいいが、
次にベースの低音も増幅して重低音感を出したと思ったら、
増幅に増幅を重ねることになってしまい、
音エネルギーの空間に入りきらなくなってしまいます。

それでも今のテクノロジーでは無理矢理に詰め込むことができる
のですが、それをしてしまうと、全体的にのっぺりとした
味気ない音源になってしまいます。
まるで、押しつぶされたおまんじゅうのように。

中学生の頃に、一般家庭にあるコンポやラジカセの、
「高域(H)・中域(M)・低域(L)」などというツマミを
すべて全開にして、

「うーん、いい音だなあ。」

などと言っていた同級生がおりましたが、
高域も中域も低域もすべて上げるということは、
音質は変わらずに単に音量を上げただけということになり、
実はあまり意味のないことだったのです。

そこで、イコライザーをブーストの方向ではなく、
カットの方向に使ってみたいと思います。

先述の例ですと、

「ピアノの低域のモコモコした部分を、
 イコライザーでカットすることで、
 相対的に高音域を印象付ける」

という方法です。

カットするのですから、音エネルギーの空間が増え、
そのスペースを他の用途で使えるようになります。

よく、仕事の話や人生訓などで

「足し算よりも引き算が大事」

などと言われますが、音楽のミックス作業においても
同じことが言えそうですね。

作曲家・株式会社サウンドジュエルデザイナーズ 代表取締役/青森県出身・横浜市在住/映画音楽、テレビやCMの音楽、歌、舞台音楽など、幅広い色彩の音楽を、繊細な音楽表現で描いています。主な作品は、映画『校庭に東風吹いて』、『ひまわり 沖縄は忘れない あの日の空を』、『アンダンテ 稲の旋律』、テレビアニメ『アスタロッテのおもちゃ!』など。特技は、集中力が長時間持続すること。好きなものは、美しいもの、映画、本、マカロン、チョコレート、高い所。好きな言葉は、「芸術家は弱者の味方である」。ドストエフスキー、太宰治、寺山修司、芥川龍之介、江戸川乱歩、夢野久作などを愛読しています。