日記

音を汚して馴染ませる

デジタル音楽全盛の現代においては、音楽を作る時、

「きれいな音」

ということが大前提となって制作が進行しますが、

「きれいな音=良い音」

とは必ずしもならないのが本当のところです。

最近は、高解像度・高音質で録音されたサウンドを扱って
音楽を作りますが、そのような音源をそのまま使っても、
どうも心にしっくりこないものです。

たとえば、音楽制作の現場では「ディレイ」というエフェクトが
あり、それはあの「ヤッホー」というやまびこのような効果で、
ボーカルトラックなどに薄くかけて立体感を演出したりしますが、
このディレイを聞くと、「きれいな音」が
いかに人の心に馴染まないかがよく分かります。

山に向かって「ヤッホー」という叫ぶと、山に反射した声が
返ってきますが、その返ってきた声というのは、一番最初に
人の口から発せられたものよりも音質が劣化しています。
原声とまったく同じ音質の声が返ってきたりしたら
驚いてしまいますよね。

ところが、音楽を作る際の「ディレイ」というエフェクトは、
デジタル処理ですので、原音とまったく同じ音質のものを
何度もリピートできてしまいます。
そうすると実に違和感のある、不気味なものになります。

そこで通常は、返ってくる音のほうをわざと「劣化」させます。
具体的には、イコライザーを使って高音域を削って、
ボソボソとした音質の、クリアでない音にしてしまうわけです。
そうすると不思議なことに、たちまちしっくりきます。

また、映画の映像に合わせて効果音を乗せる場合も同じで、
「きれいな効果音素材」はそのままでは使用できません。
素材をそのまま付けたのでは、安っぽいコントのような雰囲気に
なってしまうため、高音域を削って劣化させます。
そうすると映像に馴染んで違和感がなくなるのです。

以上は、録音物についての話ですが、
実はこれは生演奏にも同じことが言えます。

たとえばあるサックス奏者は、
ソロで演奏する時には「きれいな音」を意識して吹きますが、
他の楽器とのアンサンブルの中で吹くときには、
わざと音質的な汚しを入れて、他の楽器に馴染ませる
という方法をとっているそうです。
これは演奏技術上、とても高度なテクニックですね。
技術不足による音の汚さなのではなく意図的に音を汚すのです。

作曲家・株式会社サウンドジュエルデザイナーズ 代表取締役/青森県出身・横浜市在住/映画音楽、テレビやCMの音楽、歌、舞台音楽など、幅広い色彩の音楽を、繊細な音楽表現で描いています。主な作品は、映画『校庭に東風吹いて』、『ひまわり 沖縄は忘れない あの日の空を』、『アンダンテ 稲の旋律』、テレビアニメ『アスタロッテのおもちゃ!』など。特技は、集中力が長時間持続すること。好きなものは、美しいもの、映画、本、マカロン、チョコレート、高い所。好きな言葉は、「芸術家は弱者の味方である」。ドストエフスキー、太宰治、寺山修司、芥川龍之介、江戸川乱歩、夢野久作などを愛読しています。