日記

iPhoneでクラシック音楽を楽しむのは難しい

ここ10年で音楽を楽しむスタイルが大きく変わりました。
今では、多くの人が音楽をiPhoneなどの携帯端末や
YouTubeなどのストリーミングサービスで聞いていると思います。

大好きな歌や音楽を手軽にいつでもどこでも楽しめるようになり
とても便利な世の中になりましたね。

しかし、中には楽しむことのできない音楽ジャンルもあります。
たとえば、クラシック音楽がそうですね。

ためしに、誰が作曲したものでも構いませんので、
シンフォニー(交響曲)を電車の中で聞いてみてください。
電車の騒音にかき消されて、ほとんど聞こえない部分が
あると思います。

特に第2楽章などは、静かなものが多いので、

「あれ、再生が止まってしまったかな。」

と思ってしまうほど何も聞こえず、画面上でカウンターが
進んでいるのを見て再生されていることを知るという感じです。

このような部分では音量を最大にしても聞こえない場合が多く、
ましてや音楽の細部など聞き取れるはずもありません。

音が聞こえないからといって、このような静かな部分で
音量を最大にしておくと、突然フォルテシモが始まったりする
ので注意が必要です。

シンフォニーは音の大きな部分と小さな部分の開き(ダイナ
ミクス・レンジと言います)がとても大きいので、
ボリュームを常に上げ下げしなければいけなくて、
音楽の鑑賞どころではなくなってしまいます。

クラシックの生演奏を聴くと、聞こえるか聞こえないかのような
とても小さな音までちゃんと鼓膜に届いて、それがかなり豊かな
音楽的体験を提供してくれる場合があります。

チャイコフスキーのシンフォニー第6番《悲愴》の第1楽章に、
「pppppp」という強弱記号があります。

「pppp」が「ピアニッシッシッシモ」と読みますので、
この「pppppp」は「ピアニッシッシッシッシッシモ」と
なるでしょうか。舌が踊り出しそうです(笑)。

「音量を極限まで小さく」という意味ですが、
この雰囲気を味わいたいと思ったら、
生演奏を聞くしかありません。

つまり、現在世の中に広がっている圧縮音源は、

「音量が大きくてくっきりした音色の音には強いけれど、
 音量が小さくてぼんやりした音色の音には弱い。」

ということになります。

小さな音を音源にそのまま収録したら、
とても電車の中では聞けないような品物になってしまいますし、
室内で高級オーディオ機器を通して聞いたとしても、
生演奏で聞くことの10分の1の快感しか享受できないでしょう。

しかたがないので、電車で楽しむことを前提とするなら、
小さな音を大きく、大きな音を小さく、つまり全体としては
平坦な波形にしていく現代のポップスのマスタリング技術で、

「電車で聴きたいクラシック」

というシリーズ音源をリリースするしかなさそうです。

作曲家・株式会社サウンドジュエルデザイナーズ 代表取締役/青森県出身・横浜市在住/映画音楽、テレビやCMの音楽、歌、舞台音楽など、幅広い色彩の音楽を、繊細な音楽表現で描いています。主な作品は、映画『校庭に東風吹いて』、『ひまわり 沖縄は忘れない あの日の空を』、『アンダンテ 稲の旋律』、テレビアニメ『アスタロッテのおもちゃ!』など。特技は、集中力が長時間持続すること。好きなものは、美しいもの、映画、本、マカロン、チョコレート、高い所。好きな言葉は、「芸術家は弱者の味方である」。ドストエフスキー、太宰治、寺山修司、芥川龍之介、江戸川乱歩、夢野久作などを愛読しています。